夜桜舞う里

22話



 午前一時前。
 槻宮学園――

「葉守神社の状況は?」
「城田組長と斎木守役が鏡と共に行方不明。里からの術者があと一時間ほどで到着するとのことです」
「そう……」
 玲香は暫し考え、
「学園内に霊域への入り口が出現していないか、確認をお願いします。あと、生徒が外を歩いていないか、厳重にチェックを。霊域と葉守神社のご神体……、偶然にしてはタイミングが合いすぎているわ」
「かしこまりました、室長代理」

 遠ざかっていく足音に玲香は息を吐いた。
 深夜の理事長室には他に誰もいない。
 霊的な異変が起きた時に陣頭指揮を執るのは、邪霊対策室長を兼ねる理事長だが、普段は本校にいる。

 理由は大きく二つ。
 一つは、霊的な異変は本校のほうが圧倒的に多く、深刻なものも多い。
 もう一つは、槻宮家の霊筋に大きく関わる存在が京の地にあるからだ。
 理事長不在時に学園で異変が起きた時、臨時で指揮を執るのは、対策室で最も格が高く、力がある者。
 今夜の浅城校舎内では玲香が該当する。

「どうして、今になって……」

 今回の件はあまりにも予想外だった。
 望の話を聞いた限り、事態は深刻だろう。
 そして、この異変を鞍馬が察知していないはずがない。

「……動くのかしら……?」

 ほんの一年と少し前まで暮らしていた京の地へ思いを馳せる。
 窓に映る自分の顔の向こうに葉守神社が視えた。

「あ……!」

 窓の向こうからこちらを目指してくる白い影に慌てて窓を開けた。
 夜風と共に白い影が部屋に舞い降り、指に舞い降りた。
 白い鷹がふわりと溶け、一枚の便せんに変わる。
 霊気を込めた指で真っ白な紙面をなぞると、文字が浮かんだ。
 霊気に反応する特殊なインクで書かれているのだ。

 返信の遅れを詫びることから始まり、長い文章がつらつらと書き連ねられている。
 霊気に少し疲労が見え隠れしている。出撃していたのかもしれない。
 眠いのを我慢して書いたらしいのが、やや乱れた文字からわかる。
 こちらの霊気から緊急事態を読み取り、返信を急いでくれたのだろう。

「え……?」

 几帳面な文字を追っていた玲香は顔を強張らせた。
 意味を取り違えているのだろうか。

「どういうこと……?」

 千年前の件で霊染め桜の植栽に立ち会った里の者は城田紡のみ――。
 何度読み返しても、手紙から読み取れるのはその意味だけだ。

「じゃあ、城田組長達は……」

 ――いったい、誰に会ったというの……?

 髪を揺らす夜風が冷たくなったような気がした。