春宵の邂逅

26話



雨雲が舞い降りてきたかのように、あたりは霧が立ち込めていた。
(一真君は……)
防御幕を解除し、望は周囲に意識を飛ばした。
(……マズイな……)
予想外に一真の霊力が大きかった。
いや、大きすぎた。
かなり加減したとはいえ、望が放った火球は一真が放った風に競り負けた。
外からの風が入り込まない結界の中で、霧が全てこちらに流れてきているのが何よりの証拠だ。
(どう出る……?)
思った通り、一真は感覚だけである程度の霊力を操れるようだ。
もう霊力を攻撃に回せると思っておいたほうがいいだろう。
霊的な感性が鋭いのか、無意識に霊体を発動させて生きてきたのか、この短時間での上達の速さは異常だ。
(もしかして……、僕と同じ……?)
左手の甲がジワリと熱くなった。

  「風を呼んだ?天狗でもないのに?」
  「あの霊格の高さ……、天狗でなければ化け物じゃ。化け狼じゃぞ」
  「あの子供の姿の中にどんな化け物が潜んでいるのやら……。早く霊山に連れて行った方がいいのでは?」

耳の奥に蘇る声を軽く頭を振って封じ込める。
(……仲間だったら……)

――どれだけ気持ちが楽になるだろう……
――人の世に居てもいいと、自分は人だと思ってもいいような気がする……

こみ上げてくる期待を押し止め、現実に意識を集中させる。
突っ込んでくるのか。
霧の外から風を打ち込んでくるのか。
それとも――。
霊気を探り、小さく舌打ちする。
霊風の余波があちこちに残っている。
どれも、先ほどの一真に比べると小さいが、水の上にも立てずに転がっていた時の一真ならばいい勝負だ。
爆発前に一真がいた付近にも霊気が残っているが動いていない。
残像だろうか。
(……さっきのを防御できずに倒れてるっていうのもアリかもしれないな……)
そんな考えが過った時だった。

ゴウッ

霧を巻き込んで風が唸った。
目の前に碧の風が迫る。
(なにも正面から来なくても……)
思わず苦笑する。
馬鹿正直すぎる攻撃だ。
だが、一真らしい。
右手に霊力を込めて風を割り、次の攻撃に備える。
左右に割れた風が霧も左右に分けて運ぶ。
先ほどよりも見晴らしがよくなった。
あの性格だ。
次は風ではなく正面から突っ込んでくると考えたほうがいい。
「っ!?」
望は息を呑んだ。
急激に高まる霊力と共に碧の光が膨らんだ。
左側の霧で――。
「油断しすぎだぜ、先輩!!」
霧の中から飛び出してきた一真の拳に碧が灯った。
右のストレートが真っ直ぐに伸びる。
拳に纏わりつく風が赤茶色の髪を揺らした。